今回はベトナム語の通訳者・翻訳者である木村友紀さんにお話を伺いました。
ベトナムとの出会いを教えてください
大学2年生の夏休みに参加したスタディツアーで初めてベトナムを訪れ,
2週間の日程でベトナムの南部とカンボジアを巡りました。
初めての海外旅行ということもあり「外国が本当にがあった」と衝撃を受けました。
とても良い思い出として帰国してからもベトナムのことを何となく思い返していました。
いつからベトナム語を学び始めたのでしょうか
スタディツアーを引率して下さった先生にベトナム語を勧められ、ベトナム語の勉強を始めました。
友人達が就職活動を始める頃には漠然と「ベトナムのことやりたい」と思うようになり,
大学4年生の時に再度スタディーツアーに参加して卒業前に留学を決意しました。
卒業後は東京にあるベトナム語の語学学校に通いながら、アルバイトをして留学資金を貯めました。
最初は現地の大学に入学されたのでしょうか
2009年の1月にホーチミン市人文社会科学大学ベトナム学部が運営している
外国人向けのベトナム語コースに入学しました。
ベトナム語を学ぶうちに「1年間ではとても足りない」と感じるようになり、
この学部の修士課程へ進むことにしました。
ベトナムの大学院の入試や入学手続きについて日本語の情報がほとんどなかったかと思います。
現地で手続きをされたのでしょうか
はい。
一時帰国してから再度ホーチミンに戻り現地のアドミッションオフィスで
出願方法や入試の詳細を確認する日々が始まりました。大学院への入学手続きは全てが手探りでした。
全てベトナム語でのやりとりとなるので、自分が理解できるまで何度もオフィスに通いました。
入学するまでは本当に必死でしたが、煩雑なやり取りを経て無事に入学できたことが大きな自信となりました。
ベトナム語が好きでベトナム語を勉強することが純粋に楽しく
「とにかく勉強したい」という気持ちがあったので必死に頑張ることができたのだと思います。
ベトナム語のどんなところに特に魅力を感じますか
一つは音です。
普段から音楽を聴いたり歌を歌うことが好きなのですが、ベトナム語の音楽のような
美しい響きを聞いて自由に操れたらいいなと思うようになりました。
もう一つはベトナム語という言語がたどってきた歴史に非常に興味がありました。
最終的に修士論文を書くことなく大学院は退学したのですが、修士論文のテーマとして取り上げることも考えていました。
ベトナム語は漢字に起源を持つ言語ですが、チュノムという独自の文字が作られ
その後フランス人宣教師が考案した音をアルファベットにあてはめる現代ベトナム語へと変化した歴史があります。
ベトナムにも書道の文化がありますが、カラフルなベトナム語の作品を見ると、
ベトナム語に対する柔軟性やたくましさを感じます。とても象徴的で魅力を感じます。
「ベトナム語力が安定してきたな」と感じるようになったのはいつ頃でしょうか
外国語を学ばれている方で「ある日突然言葉がわかるようになった」とおっしゃる方もいるのですが、
私の場合は全くそんなことはなく「昨日よりも今日、今日よりも明日」と少しずつ前に進んでいた気がします。
留学の1年目は自分のベトナム語がなかなか伝わらず何度人前で泣いたか分かりません。
大学院の入学手続きを全て自分で行ってからは自信もつき、日本に一時帰国をしても
ベトナム語が離れないでいてくれるという感覚を持てるようになりました。
大学院の授業でも「全く分からなかった日」もあれば
「今日は7-8割分かった」という日もありその日によって波があったと思います。
どのように現在のキャリアを始められたのでしょうか
現地生活がまだ1年に満たない、まだまだベトナム語も拙かった頃から、通訳や翻訳にトライする機会に恵まれました。
通訳については友人知人が依頼してくれるようになり、翻訳については
自分で現地新聞の翻訳をするアルバイトに応募しました。
どちらも決して自信があったから取り組んだのではなく、
現場を経験することでもっとベトナム語が上手になりたいという気持ちから始めたことでした。
実際にはなかなかうまくできずに、自分の非力さに打ちひしがれるばかりでしたが、
本当に勉強になりましたし、度胸がついたような気もします。
通訳翻訳は「これこれをしたらプロ」と明確に決まっていないと思うのですが、
経験を重ねることの重要さを知りました。
2014年に本帰国後にフリーランスの通訳・翻訳そしてベトナム語の講師として働き始めました。
周りにフリーランスとして通訳・翻訳の仕事をしている知人もいなかったので、
Google検索でヒットしたエージェントや語学学校に上から順番にコンタクトをしました。
登録に際しレベルチェックテストがあるエージェントもあれば、
「登録はして頂きますが仕事があるかどうかは依頼次第」というエージェントもあり対応は様々でした。
最も力を注げるのは翻訳の仕事だと感じていますが、通訳や講師のお仕事とのバランスも考えながら仕事をしています。
以前弊社のお客様が来日された際通訳をして頂きました。
木村さんが通訳される日本語がとても美しく、VIPの方々の重厚感が増したような気がして驚きました。
語彙を増やすなど何か心がけていることはありますか
仕事を始めてみて大切なことは「いかにベトナム語を知っているか」だけではなく
「いかに日本語を知っているか」だと痛感しています。
日頃から語彙を増やすためにテレビやラジオ、雑誌、SNS等で見かけて
気になった言葉はメモをして、機会があれば使うことを意識しています。
言葉のアンテナを常に立てることで語彙力強化につながると思います。
もともと大学で哲学科専攻だったこともあり言葉に対する姿勢について学ぶ機会が多くありました。
一つの言葉がどのように定義されその文脈で使われたのかということや、
その言葉を選んだスタンスを知ることなど「言葉を大事する」「そもそも言葉とは何なのか」を
考えることが習慣になりました。
昨年出産をして子育てをする中で「自分の気持ちを表現できる人になって欲しい」と感じています。
とにかくたくさん話しかけて、感想聞いたり質問をしてみたり。
そんなやりとりが自分にとって心地良いのだと思います。
木村さん 貴重なお話ありがとうございました。
プロフィール
木村友紀/KIMURA Yuki Ms
1985年、埼玉生まれ、山梨在住。
法政大学文学部哲学科卒業後、ホーチミン市へ留学。
約6年間の現地生活を経て帰国後は、フリーの通訳翻訳者、語学講師として活動。
特に司法通訳、コミュニティ通訳の分野に力を入れている。
また複数の語学スクールで日本人学習者へのベトナム語レッスンを担当し、2020年10月には初の著書
「いちばんやさしい 使えるベトナム語入門」(池田書店)を刊行。